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松陽新店|江南の秘境で、ゆったり高山ライフ

私たちはかつて、「美しい場所で、美しい人と出会い、美しいライフスタイルを届ける」と約束しました。あれから何年もの月日が流れ、大楽之野は山へ、川へ、湖へ、そして海へと旅を続け、みなさんの心の中にある“理想の美しさ”を探してきました。そして今、私たちはより強く感じています。「人が暮らす場所こそ、その人の理想が宿る場所なのだ」と。
今回向かったのは、江南の秘境・松陽。5年という歳月をかけてつくり上げた、高地に佇む伝統的な山村です。ここでは、知的な人も感性豊かな人も、この静かな美しさにきっと胸を打たれることでしょう。

松陽 高山伝統村落 風景.png
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料理の世界では、低温でじっくりと火を入れる調理法が、身体にやさしく、そしてシェフの腕前がもっとも問われる方法だと言われます。食材を知り尽くし、火加減や技法、時間を細やかにコントロールすることで、素材本来の味わいを引き出していくのです。
いま猛烈なスピードで進化を続ける宿泊業界において、ひとつのプロジェクトに5年もの時間を費やすことは、松陽の小后畲村という場所そのものを、“生きた空間”として表現するアートプロジェクトだと言ってもいいのかもしれません。

この5年間、私たちは生態学者のようにこの土地を見つめてきました。春雨、夏の蝉しぐれ、秋風、冬の雪――四季折々の変化を追い、ここに根づく植物たちの命の循環を観察してきました。同時に、私たちは人類学者のように、標高800メートルの小さな高地集落であるこの村の人間関係にも目を凝らしました。村の叔父さんやおばさんの家で端午節のお茶をいただき、新しい紅麹酒を一緒に味わい、夏には一緒に渓流で冷やしたスイカを食べ、冬には梁に吊るしたばかりの腊肉を眺めながら、宗祠でともに祭祀を行う――まるで家族のように過ごしてきたのです。
そして子どものような好奇心も忘れずに、この村でどんな“遊び”が生まれるのかを探り、日常から少し離れた体験プログラムも編み出しました。田んぼのあぜ道で咲く朝顔、稲田の真ん中でいただくアフタヌーンティー、夕陽に染まる裏山で草をはむ子牛、何も起こらない窓の外の景色――そんな5年間で私たちの心をときめかせた光景を、そのまま大切に残して、みなさんが見つけてくれる日を待っています。

そんな時間を経て、小后畲村という場所に、私たちの新しい拠点「大楽之野 松陽店」が生まれました。古い集落の姿をできる限りそのままに、建物の輪郭や境界、空間のスケールを受け継ぎ、昔の気配を残したまま息を吹き込んでいます。ここで私たちが伝えたいのは、「高山に寄り添い、ゆっくりと生きる」という哲学。
現代の感性で農耕文化や古くからの物語を読み解き、「私たちが修復しているのは建物だけではなく、大地とのつながりという“へその緒”そのものなのだ」という言葉の、本当の意味を都市で暮らす人たちと分かち合いたいと思っています。

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【01 山々の襞にそっと隠れたタイムカプセル】

くねくねと続く山道は、進むほどに細くなり、やがて南浙江の深い緑の中に、色あせた一本のリボンのようにのびていきます。いったい何度ハンドルを切っただろうか――そう思い始めた頃、崖沿いの竹林の隙間から、ふっと光が差し込み、突然、村が姿を現します。まるで山の神さまが手のひらにそっと置いた小さな盆景のように、世界から切り離された小さな集落。
霧に包まれたり、渓流が流れたりする他の松陽の村々とは違い、今回私たちが選んだのは“高山と肩を並べる”場所。標高800メートルの山上にありながら、なだらかな平地が一帯に広がり、半円を描くような村と、連なった棚田が一体となっている、極めて貴重な地形です。5年前、私たちの心を強く捉えたこの小后畲村には、今ではわずかな村人だけが暮らしています。夯土の壁は蜂蜜色の温かな黄を帯び、魚の鱗のような黒瓦には、長い年月の雨の跡が流れ、幾重にも重なる棚田が家々の前から遠くへと続いています。

小后畲村 全景.png

村の入口で自分の畑仕事に精を出しているおじさんが、私たちに気づいて顔を上げ、にかっと笑いかけてくれます。高い山々に囲まれた小さな平野で、かつては少し寂しげだったおじさんやおばさんたちも、今では私たちという“新しい隣人”を得ました。これからこの16室の客室には、たくさんのゲストが訪れます。景色を一望できるダイニングで自家製の松陽紅麹酒を味わい、稲田を見下ろすカフェで“何もしない時間”を楽しみ、ショップ「野有集」で地元の端午茶を一包みお土産にする――そんな時間がここで過ごされることでしょう。

私たちが願っているのは、ここで語られる“農村の記号”を、見世物にしないことです。ここには、観光写真に出てくるような一年中たなびく煙も、完璧に衣装を整えた蓑笠姿の老人や、絵柄のように配置された鳥たちもいません。雑誌やコンテストの受賞写真で見かけるような、過剰に演出された“田園のドラマ”ではなく、ただ、自然な成り立ちの中で時を重ねてきた、有機的で、手つかずの村がここにあるだけ。そこにこそ、私たちが理想とする松陽の伝統集落の魅力が宿っているのです。

松陽 伝統集落 生活.png
建築ディテール 空間.png

【02 今度は“空間”であなたを癒したい】

ここで言う“空間”とは、まず建築そのもののことです。私たちは松陽に伝わる伝統的な建築様式を受け継ぎ、家族の象徴でもある「四水帰堂」の中庭構成をそのままに、回廊を“走馬楼”の形式で客室へとつなげました。木組みの継手や土壁の質感を残しながら、現代の建築技術や省エネの考え方を取り入れ、古い家屋を今の暮らしに合うように整えています。
一方で、もとの建物の要素も少しだけアレンジしました。開口部を広げて採光をよくし、天井高を上げて空間の使い方に余白を持たせる。細かなディテールの調整によって、滞在の心地よさをぐっと高めています。

光と時間 建築.png

「コンクリートに呼吸を教え、光をひとつの薬にし、時間をもう一度やわらかくする。」そんな思いを込めて、いくつかの建物が一枚の田んぼをぐるりと囲むように配置されています。まわりを取り巻くのは山林と緑地。屋根の勾配や重なり合う田畦のラインは、もともとあった村の家々の屋根と視覚的につながるようデザインしました。
朝の光が木の梁を抜けて床に落ちると、グラデーションを描く光の粒が連なり、揺れる木陰のようなパターンが現れます。

ここで感じる“空間”は、音と香りでもあります。ほんのりと漂う酒麹の甘い香り、薬草のほろ苦さ、年月を経た木材の深い香り。暖炉の薪がはぜる音、夏の雨音、冬の雪が軒先に落ちる音が空間を満たしていきます。
朝には村で2頭だけ飼われている小さな牛たちと一緒に、1時間以上かけて裏山の小道を歩いてみる。足元は少し不揃いだけれど、野の草花の香りがふわりと立ち上るその道のりは、“役に立たない低効率な時間”のように思えるかもしれません。でも、そんな時間こそが、デジタル時計のリズムから身体を解き放ち、自然本来のリズムへと連れ戻してくれるのです。

この空間は、時間と歴史が折り重なった場所でもあります。

松陽の四季は、村人たちにとってはいつもの日常。でも、都市で暮らす私たちにとっては、そう簡単には手に入らない“遠い憧れ”です。
早春になると山々が少しずつ目を覚まし、岩のように見えていた山肌に、柔らかなグラデーションを描く緑が現れます。雨が増え、やがて田んぼもみずみずしい色をまとい始めます。しばらくすると、高低差のある斜面にツツジが一斉に咲き誇り、木々の間に白や赤の花を咲かせます。曲がりくねった山道を進むたびに、思いがけない場所でその色に出会えることでしょう。春の終わりが近づくと、山一面に桃のつぼみがふくらみます。村人が植えた桃もあれば、野生のまま伸びた木もあります。

やがて、桃の木にはたくさんの青い小さな実がつきます。それは一生懸命に育っている“幼い桃”。斜面に沿って段々畑のように広がり、陽射しと雨をたっぷり浴びています。そう遠くないうちに、ひとつひとつ袋をかぶせられ、夏が来る前には、山奥にひっそりと隠れた極上の水蜜桃となるのです。
無錫の水蜜桃ほど名は知られていなくても、ここの桃を侮ることなかれ。かつてこの山里は地形的に耕作地が限られ、穀物をたくさん作ることが難しい場所でした。そんな中でも、雨が多く、日照にも恵まれた“江南のトルファン”ともいえる気候に助けられ、桃の木だけはたわわに実り、果汁たっぷりで甘みの濃い水蜜桃を生み出してきたのです。

秋になれば、収穫したばかりのもち米でお酒を仕込みます。松陽では酒づくりは代々受け継がれてきた家業のひとつで、どの家でも造ることができますが、本当においしい酒をつくる家は、そう多くはありません。麹を振りかけ、熟練の手つきと門外不出の配合で造られた松陽の酒は、いつの間にか評判を呼ぶようになりました。紅麹酒、土焼き酒、白老酒――どれも人気者です。
冬には火炉に火を入れ、数年前に仕込んだお酒を一杯。これ以上ないごちそうです。今年からはそこに「大楽之野 松陽店」の温泉プールも加わりました。冬の朝、冬の昼下がり、冬の深夜――どの時間帯にも、あたたかな湯と一壺のお酒があれば、自分をやさしく癒す理由になります。

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【03 逃したら一年じゅう悔しくなる“端午限定”】

まもなく端午節がやってきます。この時期になると、松陽じゅうの植物たちがそわそわし始めます。「また根こそぎ摘まれてしまうんじゃないか」とでも言いたげに。
松陽には「端午茶」と呼ばれる伝統的なお茶があります。名前こそ“茶”ですが、一般的な茶葉のようにカテキンを多く含むわけではなく、飲み方が似ているだけで、中身は想像できる草木から、思いもよらない薬草まで、さまざまな植物でできています。
お茶でありながら、そのルーツは端午の行事と深く結びついています。ここ松陽の叔父さんやおばさんたちは、それぞれの家に伝わる「端午茶」のレシピを持っていますが、どの家も共通しているのは、“端午の頃”という限られた季節にだけ、山へ入って植物を摘み、お茶を仕込むということです。

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どうして端午なのでしょうか。村のおばさんはこう教えてくれました。「端午を過ぎないと採れない草があるのよ」と。また、少し離れた村にはこんな言い伝えも残っています。「端午の日は一年でいちばん“陽の気”が強い日。だから万物を干すのに一番いいし、端午茶をつくるのにも最高の日なんだ」と。
松陽では、どの家も一年を通して端午茶を飲みます。冷たくしても温かくしても、どこへ行っても一杯飲みたくなる――そういう意味では、まさに“この土地の国民ドリンク”と言ってもいい存在です。

深い山の中では、手に入る資源は限られています。それでも、高地の村は自分たちなりの“美しい暮らし方”を育んできました。古いものを使い続けることで、歴史と文化の重なりを感じ、新しい工夫で、村の未来の可能性を探っていく。
私たちは村に“足し算”をしました。現代の旅人が求める居住空間と快適さを加えたのです。同時に、“引き算”も心がけています。派手なアートで飾り立てるのではなく、本当にここに暮らす“新しい村人”として、年に数日でもこの村の暮らしに身を置き、自然への感覚を呼び覚ます――そんなあり方を大切にしたいのです。

これから先、この村には、もっと多くの職人たちが滞在するかもしれません。世代ごとに楽しめる親子向けのプログラムが生まれるかもしれません。まだ何も決まっていませんが、私たちはすでにひとつの「5年」を使って、“ゆっくりと生きる宣言”を書き上げました。文化が自然に育っていくための土壌を、この村に用意したいのです。

そして、これからやって来る、いくつもの「次の5年」。
私たちは仲間たちとともに、高山での『MELLOW LIFE(ゆるやかな暮らしの哲学)』を、少しずつ実践していきます。

【客室のご案内】

宿には全16室の客室をご用意しています。
   内訳:松涧・コンフォートツイン 3室、墨岫・コンフォートダブル 2室、峦影・エレガントスイート 3室、映雪・テラスダブル 1室、酿春・ファミリーツイン 3室、云岚・Loft景観ガーデンスイート 2室、归樵・Loftファミリーガーデンスイート 2室。
館内設備:野有食(ダイニング)、野有咖(カフェ)、野有集(ショップ)、プール、火炉スペースなど。

墨岫・コンフォートダブル

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1.8m×2mのダブルベッド 1台
定員 2名
¥1,865~

松涧・コンフォートツイン

松涧・コンフォートツイン.png

1.3m×2mのシングルベッド 2台
定員 2名
¥1,532~

云岚・Loft景観ガーデンスイート

云岚・Loft景観ガーデンスイート.png

1.8m×2mのダブルベッド 1台
定員 2名
¥2,398~